外傷性脊髄損傷患者の1年後の歩行能力を神経学的検査から予測することは可能か

 脊髄損傷は脳血管障害と並び、リハビリテーション職が大きくかかわる疾病である。脊髄損傷の発生頻度は1990~1992年の全国的な調査で人口100万人当たり年間40.2名と報告されている。地域での調査では人口100万人あたり30~40人、120~130人と地域差が激しい。また近年の高齢化に伴い、受傷時年齢の高齢化が明らかになっている。

 

 脊髄損傷患者におけるAmerican Spinal Injury Associattion Impariment Scale(AIS)の変化ではMarinoらが入院時Aの場合は退院時または1年後にB-Dと不全麻痺に変化するのは約10~15%でDまで変化するのは約2%、入院時Bの場合約1/3がCに1/3がDに1年後変化し、AIS Cの場合は1年後に2/3がDに変化すると述べている。

 

 1年間の経過を見ても、神経学的な回復は得られず、機能障害、能力低下が残存することが予測される。脊髄損傷患者においてはリハビリテーションの期間が長期化することが予測されるが、昨今の在院日数の短縮により同一の病院でリハビリテーションを完結することはなくなり、急性期、回復期、維持期にわたる連携したリハビリテーションの提供が重要となっている。脊髄損傷後には大きな身体状況の変化が生じ、身体状況に合わせた生活の再構築が円滑に行えるように介入を提供する必要がある。特に移動の可否については住環境、活動範囲などに大きな影響を与え、早期から情報提供を行い、問題点に対しての介入、提案などを実施する必要がある。

 

今回は脊髄損傷患者の歩行獲得の予測を検討した報告を紹介したい。

 

2011年のvan Middendorpらの報告である。

 

研究タイプ

 前向きコホート研究

 

研究目的

脊髄損傷患者の自立歩行を予測する臨床予測ルールを作成すること

 

包含基準

European Multicenter Study on Human Spinal Cord Injury (EM-SCI)に登録された急性外傷性脊髄損傷(脊髄円錐、馬尾損傷を含む)により入院した18歳以上の成人

 

除外基準

 認知障害により身体検査に協力できなかった者、末梢神経病変、多発神経障害の既往がある者、損傷後15日以内に完全な神経学的評価がない者は除外

 

情報収集

年齢(65歳≧、<65歳)

International standards for classification of spinal cord injuriesに準じた神経学的検査(運動スコア、Lighat touch sensory〔LTS〕、pinprick sensory〔PPS〕 )

AIS

1年後の歩行能力(Spinal Cord Independence Measure item移動項目、0~3:自立歩行不可、4~8:自立歩行可能、歩行距離項目、屋外歩行項目)

 

受傷後15日以内、1か月後、3か月後、6か月後、12か月後に情報収集

リハビリテーション内容については個別に調整され強度は異なっていた。

1年後の測定が実施できていない場合は6ヶ月後の測定結果が使用された。

SCIMを評価した医師、理学療法士作業療法士は神経学的検査結果について盲検されていなかった。


追跡期間

 受傷後1年間

 

解析

最大7つの予測変数を持つすべてのロジスティックス回帰モデルが評価されるモデル検索を適用。

モデルごとにAIC赤池情報量基準)を算出、適合度を評価。

同等の性能を示した場合、含まれる変数の数と、臨床場面での使いやすさに基づいて、最適なモデルを選択。

各予測ルールの性能をROC曲線下面積(AUC)から識別能力を判断。

予測の較正は予測された確率に対し記録された頻度をプロットすることによって視覚的に評価。

PPSスコアの潜在的な追加予測値、検査のタイミング(≦24時間、<72時間、<損傷後15日)、損傷レベル(四肢麻痺または対麻痺)を追加し補助的な分析を実施。

新しい予測ルールのAUCとAISのAUCと比較

カッパ係数(κ)を使用し、SCIM屋内移動の結果と中等度の距離、屋外移動の結果の一致を計算。

2008~2009年の間にEM-SCIネットワークに含まれた外傷性脊髄損傷患者(検証群)を対象に予測ルールの性能を評価。

 

結果

 

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参考文献から筆者作成

 

 対象者と除外された者の臨床的特徴は同様であった。

 1年間の追跡測定が完了した対象者と6ヶ月間の追跡測定を実施した者、追跡測定が実施できなかった者の臨床的特徴は同様であった。

 

ロジスティックス回帰分析の後、年齢と4つの神経学的予測因子からなる11の異なるモデルが歩行能力と有意に関連していた。

最終モデルは、使用の単純さに基づき選択され、年齢(65歳で2分)、4つの神経学的予測因子(大腿四頭筋筋力〔L3〕、腓腹筋筋力(S1)、L3・S1でのLTS)が含まれていた。

1年後の独立して歩行できる確率を最終予測ルールの重みづけ係数を使用して推定(最少スコアー10、最大スコア40)。

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参考文献から筆者作成

 

作成されたモデルは自立歩行可能であった者と不可能であった患者を良好に区別可能であった(AUC 0.956, 95%CI 0.936-0.976)

 

予測ルールの較正の視覚化については参考文献を参照していただきたい。

 

補助分析では損傷レベル、検査タイミングは自立歩行の予測に対し有意な付加価値がないことが示された。

 

腰髄、仙髄領域のPPSスコアを最終モデルに追加しても適合度は改善しなかった。

L5PPSスコアを追加した場合のモデルのAUCは、この変数を使用しない予測ルールよりもわずかに高かった。

 

予測ルールの精度はAISの精度よりも大幅に高かった。

 

検証群の予測ルールの識別能力は良好であった。

 

 外傷性脊髄損傷患者の1年後の歩行能力の予測を報告した研究である。今回、開発された予測ルールに関してはその識別能力は良好であり、内的検証群においても同程度の結果が得られていることから妥当性は確保されていると思われる。脊髄損傷患者における神経学的検査から1年後の歩行能力を予測を実施することができる可能性が高いようである。受診時の情報、初期評価などから歩行能力の獲得確率を予測することは、治療・介入方法を検討する指針となりえるのではないだろうか。

 

 

van Middendorp JJ, Hosman AJ, Donders AR, Pouw MH, Ditunno JF Jr, Curt A, Geurts AC, Van de Meent H; EM-SCI Study Group. A clinical prediction rule for ambulation outcomes after traumatic spinal cord injury: a longitudinal cohort study. Lancet. 2011 Mar 19;377(9770):1004-10

古澤一成, 脊髄損傷のリハビリテーション医療総論‐本邦の脊髄損傷の特徴を生かしたリハビリテーション‐ Jpn J Rehabil Med 2019;56:524-530

横山修, 脊髄損傷のリハビリテーション医療における帰結予測 Jpn J Rehabil Med 2019;56:537‐540